『母さん 僕のあの帽子 どうしたんでしょうね…』
まだまだお子ちゃまではあるが、『キッズッキーニ』
植えたワケではないが、リング外で暴れる、勝手に葉を繁らした『タイガージェット シソ』
菊芋の足元で、足元をすくおうと密かに企む『大きくなくてもジャガイモ』
カモがネギ背負ってやって来る『COME ON ネギ』
こちらも植えたワケではないが、ネギの間隙ぬって、勝手に実をつけた『トマ太郎』
おぬしは何者?食べ頃、食べ方も分からん『「君の名は」、のらぼう菜』
キミぐらいに成長したかった『キミ菊芋』
『母さん 僕のあの帽子 どうしたんでしょうね…人参の証明』
…
母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。
母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。
西条八十
…
切なく、儚く、ほろ苦い想いもやがて自然の力のままに、現れ、そして天へ地へ東西南北へ、その先へ留まることなく、進む。
歩みは違う、進むべき道も違う。それは、植物でも人間でも同じなのかも。
それでも、それぞれの現在地がある。
現すこと、そして進むということ。
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